Dark Tranquillityを語ってみる

スウェーデンの誇るメロディック・デスメタルの帝王Dark Tranquillity

さて、Dark Tranquillityが語られなくなってから久しい今日この頃。
悲しいというか情けないというか…

同時期のメロディック・デスメタルのバンド達は、もはやメロデスではなくメタルコア方面に足を踏み入れていたり、ゴシック化していたり、王道ヘヴィメタル路線へと回帰していたり、すでに解散していたりと、メロデスという枠の中で語ることの出来る唯一のバンドとなってしまった。

なのに、新世代メロディック・デスメタル勢にも押され、忘れ去られたとまでは言わんが、同ジャンルのバンドの中では非常に影の薄い存在であるのもまた事実。

そうした風潮の中、今こそDark Tranquillityを真剣に語ろうと思う。

 

彼らは1993年"Skydancer"でデビューする。

自分のDark Tranquillity初体験もこのアルバムからでしたね。
当時、輸入盤市場で話題になっていたこともあって即購入。
確か、Carcassの名作"Heartwork"よりも先に発売されてたハズです。買ったのがたまたまHeartworkの方が遅かっただけなのかもしれないが…

 

スウェディッシュ・デスメタルではAt The Gatesの次くらいに歴史のあるバンドで、同郷のIn FlamesやSoilworkなんかよりも先にデビューしている。人気の面では逆転されているが…

当時の音楽性としては、初期メロデスにありがちなブルータルなパートを基本にしつつ、唐突にメロディアスなパートが乱入するというスタイル。オーソドック スとも言えるが、バンドの持ち味の叙情メロデス風味も当時ですでに開花済み。女性コーラスも導入してたり実験的でもあった。
voは現In FlamesのAnders Fridén

 

"Crimson Winds"、このイントロの叙情メロディで泣けた (T^T)

 

 

間があいて、1995年には2ndの名作"The Gallery"を発売。

1stから2ndの間に、In Flamesは"Lunar Strain"でデビュー。そのIn Flamesでは、ヘルプを受けてMikael Stanneがvoを担当。これで、Mikael Stanneのヴォーカリストとしての才能が開花!
『世界一美しいデスヴォイス』がここに誕生!

ちなみに、1st"Skydancer"でvoをとっていたAnders FridénはIn Flamesへ移籍。

 

このアルバムと言えば、1曲目の"Punish My Heaven"
一般的にはメロデス界問答無用の名曲として君臨するこの曲は、ぶっちゃけメディア(某B!誌)の力が大きく作用してたように思う。メディアの力と言えば、似たパターンの楽曲にIn FlamesのStand Ablazeなんかも…。名曲の一つに数えるには確かに文句無しの名曲なのだが、このアルバムを代表する曲として個人的には"Edenspring"の方が相応しいように感じるんだけどね。

 

ダートラ節とも言える叙情メロディを絶叫がぶち破るイントロで悶絶!
楽曲の展開はドラマチックで、スリリングなパート、メロウなパート、ブルータルなパートが渾然一体となった初期ダートラ最強の名曲だろう。

中盤のメランコリックなパートから先、サビを絡めて転調していく展開が絶品!

 

 

続く3rd"The Mind's I"は1997年に発売。

過剰な装飾性を省いて、叙情メロディと暴虐性を前面に押し出した作風。シンプルでストレートな楽曲が多い。ゴシカル・デスという感じもする。一聴すると凄く地味なアルバムだ。でも、聴き込めば聴き込むほどハマっていく不思議なアルバム。実際に自分がそうだった。

イマイチ評価が低いアルバム。ただ、メロデスにスピードを求めるリスナーには評価が高い。

 

オススメは3曲目の"Hedon"だろう。
正にゴシカル・デス。物悲しいメロディが全編を覆いつつミドルテンポで進行、時に疾走、後半には爆走したり、ドラマチックな展開が魅力。

 

アルバムラストの"Archetype"は…テクノ・デス?
この路線を極めても面白かったように思う。もちろん別バンドで(笑。


ここでダートラ史上最大の事件発生!
Mikael Stanneが喉を痛めてデスヴォイス封印宣言。このニュースには『Dark Tranquillityは終わった…』という声も多々聞かれた。そんな自分も同じように考えていた一人。

同時にレーベル移籍やメンバーチェンジも勃発と話題の多い頃。

 

その渦中の問題作、1999年発売の4th"Projector"

さすがDark Tranquillityと言える傑作だと思うんですが…

自分は、てっきり王道メタル路線かもっともっとゴシカルな緩いメタルかと思ってました。

voは、デス声を使ってるパートは確かに辛そうです。クリーンvo(?)自体もあまり好きになれない声質です。なので、voに関しては多くは語りません(評価したくないってのもある)。
元々メランコリーなメロディが売りのDark Tranquillityの中にあって、それを最前面に押し出した音楽性。メロデスとしてのアグレッションやブルータリティは全く無いと言っても過言ではないですが、デビュー当初から持っていたゴシカル・デスっぽさは満点です。

確か、このアルバムでの来日公演で人気が地に落ちたんですよね。
まぁ、Dark Tranquillityの何たるかを"メロディック・デスメタル"という観点だけで見ていた人はアルバムにも失望したでしょうけどね。
Dark Tranquillityは最初からメランコリック・デス/ゴシカル・デスなんですよ。その"芯"はDark Tranquillityとしては全くブレていません。

 

一番好きな曲は"Dobermann"かな。
正直"To A Bitter Halt"とどっちにしようか迷うほどなんだが、こちらの曲をイチオシにしたのはDark Tranquillityらしからぬ爽やかめなイントロが印象的だったから。

展開はドラマチックで、メランコリーも満載。

恐らく、この頃が一番人気の下がってた時期なんじゃないかな?
Dark TranquillityはThe Galleryで終わった…という声もチラホラ。…というか、The Galleryがそこまでのアルバムだったか?と思う。The Mind's Iの方がいいアルバムだと思うけどな。
…てか、Dark Tranquillityというバンドをメロディック・デスメタルという中だけでしか見てなかった大いなる勘違いが原因じゃないかと。

 

 

さて、デスヴォイス封印宣言後の5th、2000年発売"Haven"

しっかり、前作以上にデスヴォイス使ってるし(笑。

 

この年は、1993年以来の名盤ラッシュだったように思う。
特に、同郷のライバル達が揃いも揃って新作を発売してきたんだよね。
Clayman/In Flames
The Chainheart Machine/Soilwork

それに合わせて、フィニッシュ系も参戦というとんでもない状態。
Follow The Reaper/Children Of Bodom
Chaotic Beauty/Eternal Tears Of Sorrow
Crimson/Sentenced

どれもこれも、バンド史上の傑作と言える名盤ばかり。
これじゃ、"Haven"は影が薄くなるよなぁ(笑。
ちなみに、Crimsonのジャケ絵はNiklas Sundinの仕事ですよ。

本作の音楽性は前作"Projector"を押し進めたような感じで、ミドルテンポの楽曲を中心にゴシカルな面を強調したメロディック・デスメタル。
メロデスとしてのアグレッションを望むファンにはメランコリーが強すぎて物足りない内容だろうが、実はこれがバンドの本質と言っていいと思う。
まぁ、正直、物悲し過ぎるアルバムではあるんだが(笑。

 

"Not Built To Last"
メランコリックさとアグレッシブさがバランスのいい楽曲。
慟哭系メロデスとでも言うのか、パワフルな中に深い悲しみを見せたり、舞台が暗転するかのように静かなパートが訪れたりとドラマチックな展開。
この曲で何度涙したことか…

 

 

確かこの後の来日公演でChildren Of Bodomと一緒にやったのはいいけど、完全に後輩に食われちゃって大きく株を下げちゃったような気がするんだが…
CoB、一番ノリノリの頃だったからねぇ…仕方無いか(笑。

 

前作からジャスト2年後に発売されたのが大傑作"Damage Done"

『ホントのピークはここからだ!』…と言わんばかりの意気込みを感じる名盤です。
別サイトにある当方のブログ・タイトルも、このアルバム収録の名曲から拝借しました。

 

前作までのメランコリックな部分はそのままに、アグレッションとスピードを注入。Dark Tranquillityだからこそ為し得たメロディック・デスメタルの傑作誕生。
ここから真のメランコリック・デスメタルの幕が開ける!

2ndの"The gallery"は個人的にはあまり好きではなかったため、3rdからここに至るまで着実に進歩していたと感じるのだが、ここにきて自らの音楽性を完全に確立したように思う。

Mikael Stanneが喉を痛めた末のゴシック化という道のりも消化しきっている。

メロディック・デスメタルへモダンな要素を組み入れつつ、他のメロデス勢の多くの進化(?)とは異なりメロディック・デスメタルのフィールドを逸脱しない範囲でのオーセンティックなメタル化は、その他多くのメロディック・デスメタル・バンド勢では成し得ない凄みを感じる。

3~5曲目の怒濤の名曲ラッシュで悶死した…

 

もちろんオススメは、最高傑作"The Treason Wall"
イントロの疾走叙情メロディで漏らした人、多数(笑。
メロディが泣きながら疾走してるんだよね。ストレートに爆走するのかと思いきや、メランコリックなパートも導入してドラマチックな展開も。
何より、Mikael Stanneのデス声の素晴らしいこと。
ミドルパートの深みのある唸り声も、疾走パートの慟哭とも言える絶叫も、名曲をよりいっそう色彩の豊かなものにしているように感じる。

 

正に、メロディック・デスメタルの正常進化(深化)

 

運の悪いことに、この年にはSentencedがバンド史上の最高傑作"The Cold White Light"を発売してるんだよね(笑。それ以外にも2002年には…
Against The Elements/Beyond The Embrace
Corona Borealis/Cadacross
In The Halls Of Awaiting/Insomnium
Alive Or Just Breathing/Killswitch Engage
Dreams Of Endless War/Norther

…なんていう新しめのところが名盤を発売してたりね。
まぁ、そこらへんはまだ許せる範囲。
先のSentencedと共にマズイのは…
Natural Born Chaos/Soilwork
…という、このバンドの最高傑作もこの年に発売。
つくづく運が無いな…Dark Tranquillity

まぁ、それでも俺はDark Tranquillityは"Damage Done"が今も最高傑作だと思うよ。アルバムの3~5曲目は反則すぎる繋がりだからね。

 

 

この"Damage Done"発売前後にはNiklas Sundinのアートワーク制作の仕事が忙しかったようで、有名どころのアルバムジャケット画像もいろいろ制作してます。
Reroute To Remain/In Flames
Silent Night Fever/Dimension Zero
Downhearted/Charon
Anthems Of Rebellion/Arch Enemy
Flesh_Power_Dominion/Callenish Circle
Soundtrack To Your Escape/In Flames

これら全て、Niklas Sundinの仕事です。
次作"Character"発売まで3年かかったのはコレのせいじゃ…(笑。

そういえば、この頃にSoilworkのサポートとして来日したんだよね。
俺的にはショッキングでもあり悲しくもあった…
そこまで人気が凋落していたのかと。

この世界じゃ、後輩がメインを張るツアーなんて珍しくはないんだが…それでも哀しい…

 

 

そして2005年、待ちに待った7作目"Character"

どんな心境の変化か知らんが、いきなりブラストビート(笑。
それが象徴するように、前作より更にアグレッシブになってました。
もちろん、メランコリックさはそのままに。

本作も前作に負けず劣らずの傑作。このアルバムで、Dark Tranquillityの第二章と言うよりはバンドとしての真のピークは"今"なんだなと実感した。
もはやDark Tranquillityには一切の迷いは無いかの如く、アグレッシブな曲調に『これでもか!』というほどのメランコリーを叩き込んでいる。
Dark Tranquillityこそ最強のメランコリック・デスメタル・バンド!

で、前作同様に3~5曲目が最高!
そんなに俺を殺したいのかと(笑。

 

迷った末の個人的お気に入り曲は"Out Of Nothing"
Senses TiedやThe Endless Feedも捨て難かったんだが…
曲の構成に破綻が無く、緩・急や静・動のメリハリも効いているのが俺好みなんだよね。中盤過ぎのメランコリック・パートやGソロが特に好きだ。

 

 

このあたりからDark Tranquillityの株も急上昇。
『やっと…』というか、ホント遅すぎなんだけど、ついに初の来日単独ライブが実現!

名盤"The Gallery"から苦節10年。俺も涙が出そうになった…

 

 

2007年には8作目にして現在のところ最新作の"Fiction"を発売。

Damage Doneの次に好きなアルバムがこれ。
本作は過去にDark Tranquillityとしてやり残したことを現在のスタイルで実現したように感じるんだよね。特に3rdの"The Mind's I"や5thの"Haven"あたりの影響は大きいと思う。その中で、ゴシカルな味というか耽美さ・荘厳さの表現にはとことんこだわって、過去最高の冴えを見せている。
耽美さとアグレッションはこのバンドの"芯"だからね。
特にkeyの仕事が素晴らしい。Martin Brändström、マジ好きだ。

 

まず、2曲目の"The Lesser Faith"
keyのメロディは圧倒的にメランコリック。voは悲壮感を漂わせて絶唱。そんな中でスラッシーなリフが曲を盛り上げていくのが感動的だ。
中盤からの展開は悲しすぎて泣きそうになるよ…
Dark Tranquillityの何たるかは、この曲が全てを語ってくれる。
Mikael Stanneのvoは他を寄せ付けない圧倒的な表現力だね。

 

それと、10曲目の"The Mundane And The Magic"
ゴシック・デスそのまんまだね、これは(笑。
keyのMartin Brändströmがメチャメチャいい仕事をしているのは言うに及ばず、Nell Sigland嬢の癒し度満点voもウットリするし、もちろんMikaelの深みのあるデス声もゾクゾクする。

贅沢を言うと、この後にボーナス・トラックがあるのは許せん!
この曲がアルバムのラストだったのが良かったと思うんだよね。

 

で、アルバム最強は5曲目の"Icipher"

…と個人的に思うわりには、世間一般での評価は凄まじく低い楽曲。
6thのThe Treason Wallに匹敵するバンドの最高傑作かと思う。

とにかくもう、悲し過ぎるんだって!
ピアノのメロディ、悲しみの底無し沼へ落ちていくようだ…
これ以上に深く悲しいメロデスがあるなら持ってきやがれ!
Mikael Stanneのvo、もはや美しいとかいうレベルじゃないな。デス声が泣いてるんだよ。その感情が聴き手にヒシヒシと伝わってくるんだよ。
Dark Tranquillityとしてどうかなんて全く関係無い名曲だね。


悲しみのデスメタラーDark Tranquillity
魅力は何と言っても、メランコリーとアグレッションを高いレベルで融合させていること。賛否両論を巻き起こした4thの"Projector"も、今考えて みると正常な進化とも言えるし、それ以降のDark Tranquillityの音楽性は4th無くしては語れないんじゃないかと思うんだ。なので、イマイチ正当な評価を受けていないように感じる4thを今 こそ猛烈にプッシュしたいと思う。
5th以降は妥当というか正常な進化。脇道へ逸れることなく、バンドの本質を追究してメランコリック・デスメタル道を驀進中といったところ。

『Dark Tranquillityは何を聴けばいいですか?』と聞かれたら、個人的には真っ先に6th"Damage Done"を挙げるね。それと、今思うと過渡期だったとも言えるけど3rdの"The Mind's I"。それまでのメロデス比重の高いものとゴシック比重の高いものが並び立っているので聴くことを勧める。
個人的には、6th>8th>7th>3rd>4th>5th>2nd>1stの順かな。

In Flamesはもはやメロデスではないし、SoilworkはPeter Wichersが復帰したんで少しは期待してるんだが…もうメロデスはやらないだろうし…、ということで最後の砦とも言えるDark Tranquillityにスウェディッシュ・メロディック・デスメタルの存亡がかかってるとも言えると思うんだよね。

 

最後に、声を大にして言いたい。

Dark Tranquillityは最強のメロデス・バンドです!

 

 

2009.06.10

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